琵琶湖を渡って吹き抜けてくる北風に耐えながら、春の訪れを待ちわびていた草花が芽吹き始めています。この良き日に、ヴォーリズ学園近江兄弟社高等学校を巣立っていかれる351名のみなさん、ご卒業おめでとうございます。保護者のみなさま方には、在学中の生徒たちを支えていただき、また本学園、教職員を応援していただきましたこと、心より感謝申し上げます。来賓のみなさま方には、ご多用の中、ご臨席をいただき、重ねて感謝申し上げます。
先日イタリアで開催された冬季オリンピック大会で、日本選手団はこれまでにない成果を挙げることができました。接戦を勝ち抜けた要因はどこにあったのでしょうか。私は、その原点を、スノーボードやフィギュアスケートの選手の姿に見ることができました。一つは、勝ち負けのプロセスを超えて、「楽しいからやっている」という原点を絶えず大事にしていることです。二つには、りく・りゅうペアが、フリーの演技で復活した背景には「私は、龍一くんのために滑るよ」と言った三浦璃来さんのひと言がありました。メダルのためではなく、一番大切な人のために、お互いのために全力を尽くすという姿勢です。
この間、「人生をかけてやっている」という声を聞くことが様々な競技の場でありました。人生をかけるということは、勝ち負けを超えて、人生を通してその競技と大切に関わっていくことを意味しています。勝っても負けても選手たちの人生は続くのです。大切なことは、対戦相手への敬意を忘れないこと。勝っても負けても、その経験を次にどう生かしていくのかにあります。こうしたみなさんの成長ぶりは、先日の卒業礼拝の中で4名の卒業生が語ってくれたメッセージにも込められていました。
園田さんは、「中学校の部活動では、ミスしないよう必死になってサッカーしてた。でもそんな環境で生きていくと自信はなくなります。高校の部活動でもはじめの頃は一緒で控えめでした。でもみんなと一緒にサッカーするうちにうちとけてきて、本当の友達になることができました。サッカー部のみんなといる時は自分が思ってること、したいことなど気軽に言えるようになって、素を出せてとても過ごしやすかったです」と話してくれました。
鈴木さんは、高校1年生のときに、友だちが「短期のアメリカ留学に一緒に行こう」と誘ってくれたことがきっかけで留学し、2年生では3カ月間ニュージーランドに留学しました。異文化交流や多民族国家のあり方について課題意識を膨らませ、大学でも研究したいと述べ、「もし今、自分のやりたいことが明確に決まっていない人は、他人からのアドバイスにあえて流されてみるというのもありだと思います」と話してくれました。
竹﨑さんは、人前で話すことが苦手で、「中学生の頃、授業で声が震えて、泣きそうな声のまま発表したことがある」と語り、そんな自分から変わりたいと生徒会執行部に入りました。人前で話すときに大切なことは、「言葉を自分のものにすること」です。生徒会活動の中で「自分一人ではできないこともあると受け入れつつ、周りの力を頼りながら少しずつ成長することができました」と話してくれました。
田原さんは、「単位制では、学校に来れていない人のことを責めずに、自然と気に掛ける人がいたり、無理に励ましたりもせず、距離を詰めすぎることもありませんでした。どんなクラスメイトのことも、同じ空間にいることを当たり前だと受け入れてくれる空気がありました。単位制に入ってから、何かを無理に頑張らなくてもいいし、完璧にできなくてもいいのだと考えられるようになったことが、すごく大きな支えになりました」と話してくれました。
卒業生のみなさんのこれまでの人生は、決して平坦ではなく、時々立ち止まったり戻ったり、回り道するようなこともあったのではないでしょうか。だからこそ、これまでの経験や人生が成功か失敗かの結論を出すのは、まだ早いのです。案外無駄に見えることに意味があり、その時間が自分を見つめ直したり、思考を深めたりして、人としての幹を膨らませていくプロセスになります。だからこそ、これから先もみなさんの抱えている「モヤモヤ」を伸びしろとして大切にしながら、そこに潜む課題をじっくりと解き明かしていってください。私には、みなさんの姿が、「自分を大切にし、困っている他者を助けて生きたい」と願っている優しくて、感性豊かな姿として眩しく映っています。
生涯学習という言葉がありますが、学問すること、学ぶということは、問い続けること、思考することを手放さないということです。すぐには答えが出そうもない問いを抱え続けることに意味があります。生成AIの活用によって、「それらしき答え」が簡単に得られる状況が広がっています。しかも、小学生、中学生、高校生、大学生、大人などが、発達段階を飛び越して同じ情報にアクセスし、同じように「それらしき答え」を得ていくことで、オリジナルな思考力はどう育っていくのでしょうか。たとえば、AIが提供してくれた「答え」を鵜呑みにしないで、AIにも問い続けることが、思考することを手放さないということではないでしょうか。「みなさん今日まで、本当によく頑張ってきましたね」の言葉とともに、「問い続ける人生」をみなさんに期待し、式辞といたします。
